[メーカーへの質問①]製品の理論値/規格値はどうやって算出していますか?

まず、そもそも製品の理論値/規格値をどうやって計測し発表しているかを、Wi-Fiルーターなどの通信機器を製造しているメーカーに質問。その上で、なぜ実際の製品使用時にはその理論値通りの結果が出ないのかも聞いてみました。

各社回答:「規格に定められた数値の最大です」

うーん…この質問に関する回答は概ねどのメーカーも同じで、各社の規格に定められた数値の最大を組み合わせたもの、すなわち最大にして最良の数値であるということでした。

しかしそうなると、なぜ実際に使用した場合に、理論値とかけ離れた結果となるのでしょうか? この疑問に対してはA社の例えがイメージしやすかったです。

A社回答:「時速60kmの車が1時間で走れないのと同じです」
「理論値通りの速度が出ないのは、最高60km/hの自動車で60km走ろうとしても、信号による停止時間や道路形状による減速等により、1時間では走れないことと同じとご理解ください」

とのことです。

メーカーの結論
理論値は「ベストエフォート」という最良の環境で測定したもので、実使用時にそのまま発揮されることは難しい。


つまり、スマホやWi-Fiルーターの場合だと、回線の混雑状況や多く人のが同時にアクセスしようとした場合などに速度が落ちてしまうというといったように、「あくまで環境次第」ということでした。

[メーカーへの質問①]製品の理論値/規格値はどうやって算出していますか? イメージ

リアルな環境ではベストエフォートが意味をなさないことは、メーカーも承知の上ということでしょう。それでは、リアルな結果に近い速度を、メーカーでは計測していないのでしょうか。ということで質問②に続きます。

[メーカーへの質問②]ベストエフォート以外で速度を計測していますか?

実際にユーザーが使うのと同じシチュエーションで、計測を行っているかどうか、またその結果を公表しているかどうか聞いてみました。

A社回答:「お客様に誤解を与えぬよう、計測・公表をしております」
測定しております。各機種の実効スループットとして「カタログ」「WEB」「梱包箱」等に記載して公開しています。これは、ベストエフォートを表示することで、その速度で利用できると、お客様に誤解を与えぬようにするためです。尚、弊社がベストエフォートを表示するポリシーとしては「お客様に、各ラインナップのグレードを示すため」とさせていただいております。

B社回答:「非公表ですが計測しています」
外部からの電波を通さない電波暗室を所有しており、外部要因を排した理想的な環境での測定を行っています。また、テスト用の一般住宅(国外)を所有しており、無線にかぎらずさまざまな機能を、実環境で検証していますが、これらのデータは公表しておりません。理由は、理想的な環境で得られた数値は、あくまで製品が正しく機能しているか、開発時に想定した性能を発揮できているかを確認するためのものだからです。また、実使用の測定環境や手順は各社各様のため、実環境での数値は、他社の商品と比較して商品を選んでいただく際にはあまり参考になりません。

C社回答:「計測しています」
弊社では、「理論値/規格値」以外の数値を計測していますが、国ごと、また使用環境により異なるため、正式公表はしておりません。ただ、ユーザーは記載された数値に期待を持って購入されていますから、業界全体がユーザー目線に立った情報提供の取り組みが必要と考えています

D社回答:「計測しており、一部の製品では公表もしています」
「〇〇〇〇(製品名)」(実効スループット 約〇〇〇〇Mbps)など、公表している製品もあります。
※メーカー特定を避けるため、伏せ字とさせていただいております(編集部注)。

以上を総合すると…

メーカーの結論
実測値については明確なルールがなく、各社によって見解が異なる


ベストエフォートではない、実使用時の数値について、各社ともに計測はしているようです。しかし、それを公表するかどうか各社のポリシーが大きくわかれる結果となりました。

もっとも誠実だと感じたのはA社ですが、これも、他社と比較するには他社が同じように結果を公表する必要があり、ユーザーにとっては選びにくい状況は変わりません。

[キャリアへの質問]スマホの通信速度は本当に数100Mbpsも出るのでしょうか?

続いて、通信キャリアにスマホの通信速度について聞いてみました。毎年、最高速度は更新され、最近では光通信も真っ青なスペックとなっています。しかし、それもやはりベストエフォートでしか過ぎないのでしょうか。

E社回答:「回線の混雑状況や通信環境などによります」
理論値は計算上の値であり、すべての環境が完全に整っている場合に期待される数値です。通信サービスは、多くのユーザーで回線を共有するベストエフォート方式のため、回線の混雑状況や通信環境などにより、通信速度が低下、または通信できなくなる場合があります。

この質問で回答を得られたのは1社のみ。このキャリアでは、最高速度の保証はできても最低速度は保証できず、それどころか繋がらなくなる場合もあり得るとぶっちゃけています。

結局、キャリアもベストエフォートと実測値の差は認識しているが、サービスのプロモーションには理想的な数値のみを使っていたというような、少しアンフェアな状況だったと言わざるをえません。

しかし、これに一石を投じたのが総務省の「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」です。現在では大手3キャリアでは総務省が定めるガイドラインに則った計測結果が、各キャリアサイトで公表されています。

[キャリアへの質問]スマホの通信速度は本当に数100Mbpsも出るのでしょうか? イメージ

上記のように、地域別の実行速度結果が各キャリアサイトから確認できます。

[まとめ]ベストエフォートはまやかし 時代も徐々に「実行速度」へ流れています

結局のところ、ベストエフォートが「すべての環境が完全に整っている場合に期待される数値」として「世界標準の通信規格等で自動的に決定する」以上、これがいかに実情に合っていなかったとしても、それはそれとして表示するしかありません。

その代わりに、スマホの通信速度のように正式な方法が確立されれば、次はこのことを広く周知させる努力が必要でしょう。そしてスマホだけに限らず、あらゆるサービス、ジャンルでも現実と離れすぎたベストエフォートではなく、リアルな結果をオープンにして、胸を張って商品品質を競い合って欲しいですね。